塩梅(あんばい)とは

「いい塩梅」といいますね。料理で塩加減と酸味が適度であることがおいしさを決めることから、適度なバランスがいろいろな状況で大事だということです。塩分の摂取にも適度なバランスが大切です。塩分は現代では健康における悪の代表のように言われていますが果たしてそうでしょうか? もともとヒトは海から生まれてきました。海水の中で生きていた生き物が陸にあがるときに海水の環境を、体内に血液とリンパ液として取り込んで陸で生きられるようになりました。海水の主成分はNaClすなわち塩で、ヒトの体液の主成分も塩分です。塩分がないと体液の浸透圧を維持できません。健康のためと称して塩分を過剰に制限すると、低ナトリウム血症となり、熱中症でおきる症状をひきおこします。頭痛、めまい、立ち眩み、耳鳴り、気が遠くなり、意識レベルの低下、失神、痙攣などの神経症状を起こします。また体液が不足しますので血圧低下、末梢循環不全、冷え性、息切れ、胸痛、胸部の締め付け、喉のつまり、動悸などの循環器症状をきたします。また倦怠感、足の攣り、筋力低下、歩行困難などの運動能力低下をきたします。かつて甲斐の武田信玄が今川に塩断ちをされたときに「敵に塩を送る」の上杉謙信に塩を送ってもらったのは、塩分がないと戦で兵士が活動できなくなってしまうためですね。

一方、塩分の過剰摂取は口喝、むくみ、高血圧、腎障害、脳血管障害、息切れ、呼吸困難をきたし、塩分に含まれるCl(クロール)はHCl(塩酸)を作りますので胃酸が増えて胃潰瘍になりやすくなります。かつては高血圧のコントロールには減塩と減量しかありませんでしたので減塩こそ長生きの秘訣のように考えられました。「塩は敵」といった減塩ヒステリーが今も続いてはいますが、降圧剤でも優れた薬剤が生まれてきましたので、塩分を減らす利尿剤は第一選択薬の地位をほかの降圧薬に譲り渡しており、不健康である過剰な減塩は不要になってきました。塩分不足で体調不良になりやすい方は、冷え性、低血圧、片頭痛、食の細い方、痩せ気味、自律神経の不安定な方、神経の敏感な方、冠攣縮性狭心症の方などに多いようです。

塩分の適切な調節は喉の渇きに対して、正直に水分を摂取することです。コーヒーとアルコールは利尿効果があって水分摂取に向かないので注意が必要です。喉が渇かないのに健康のためと思ってやみくもに水分を過剰に飲むなどの方法は時に低ナトリウムをきたします。尿の色は一つの目安になります。尿の色が濃ければ水分が足りないことを示し、コーヒーとアルコール摂取時以外では、尿が透明なら水分は足りています。自分の塩分の摂取が適正化を確認するのに採血検査はよい方法です。時々採血して、血中のナトリウム濃度を測ってみましょう。

まとめ:塩分は体にとって大事なミネラルです。過剰になると高血圧、腎障害、脳血管障害を増やしますが、不足するとめまい、立眩み、冷え性や胸痛などの原因になりますのでいい「塩梅」が必要です。尿の色、喉の渇き、採血結果で調整しましょう。

(爽心会 心臓クリニック藤沢六会 磯田 晋)