睡眠時無呼吸 CPAPの前にやるべき内科的治療は?

睡眠時無呼吸は、肥満などによって気道が圧迫されて空気の流れが障害される閉塞性の原因と、脳にある呼吸中枢が喫煙、アルコール、糖尿病、高血圧、脂質異常、動脈硬化などによって劣化することで呼吸努力が不安定になる中枢性の要因の二つに分けられます。睡眠時無呼吸の検査をして重症と言われますと、CPAPという器械を鼻につけて眠ることで気道の閉塞を防いで楽に息をすることで睡眠の質を改善することができます。器械と相性がいいと、熟眠感が上がって昼間の眠気がなくなり、旅行に行くときも持っていくようになりますが、何分器械ですので皆様が使いこなせるわけではありません。CPAPをつける前にできることは何でしょうか?さて元々肥満、喫煙、アルコール、糖尿病、高血圧、脂質異常、動脈硬化をベースに悪くなってきたわけですので、内科的に治療して、自分自身で努力することによって器械の必要のない状態に体質改善させることが可能です。

減量

気道の空気は喉の周囲の脂肪の圧迫によって容易に押しつぶされてしまいます。減量することで喉の空気の通り道を広げることができます。まずは糖質Dietをしましょう。甘いもの、お酒、果物、炭水化物をできるだけ減らしましょう。必然的に炭水化物摂取になる麺(うどん、そば、そうめん、焼きそば、パスタ、ピザ)を原則禁止にして、週1ぐらい特別に自分に許可してください。アイスクリームとお菓子は卒業です。お菓子コーナーに魚肉ソーセージ、チーカマ、プロテインドリンク、野菜ジュースをおきましょう。お酒はそのまま脂肪になります。赤ワイン1杯迄が許容範囲ですが、ビールを飲むならゼロカロリーにしましょう。汗をかく運動を週3回取り入れましょう。糖質の入った飲み物を控えましょう。ポカリなどスポーツドリンクは500ccに砂糖50g, 200kcalですが、イオンウォーターやOS1などの経口補水液なら50kcalと1/4のカロリーです。漢方で減量したい方は防風通聖散、糖尿病をお持ちならSGLT2という薬を使って1日50g砂糖を尿中に捨てることができます。

禁煙

喫煙はタールで睡眠中枢を傷害し、ニコチンで血管を攣縮させて睡眠中枢の血流を悪化させ、一酸化炭素で酸素供給を1割減らして睡眠中枢を劣化させます。7年早く認知症になって、7年早く天国に行きます。もちろん呼吸中枢を早く老けさせて睡眠時無呼吸を進行させます。経済的にはたばこ代1000万円、医療費500万円、7年早く天国に行ってもらいそこなう年金1500万円、全部で3000万円損しますので早めの禁煙をお勧めしますね。

アルコール

アルコールは摂取によって睡眠中枢に影響し睡眠の質を落とします。寝酒として眠りやすくはなりますが、眠りの質は下がるので、翌日よく眠ってすっきりとなるわけではありません。眠るためにどうしても必要なら、現在は癖にならない、飲み続けても認知症にならない入眠剤が5種類ほどありますのでそれを試した方がいいでしょう。アルコールは飲めば飲むほど体に悪いことがわかっています。唯一悪くないのは赤ワイン1杯で、ポリフェノールがアルコールの毒を中和していると考えられています。お酒も種類によりますがアルコールの量、含まれる糖質などの量に注意する必要があります。ビール、日本酒、カクテルのような甘いチューハイではアルコールに加えて同等以上の糖質が含まれ、ビールでは痛風の原因になるプリン体が多く含まれますので注意が必要です。

血圧

高血圧は脳血管老化の最大の原因です。生まれた時70-80だった血圧が、天国に行く頃の平均は160程度です。上が130下が80を超えるようになると脳血管の加齢が加速します。いびきと無呼吸を指摘された方はしっかり血圧を下げて脳血管を若返らせて睡眠中枢を若返らせることが必要です。血圧計を購入して朝夕測りましょう。在宅と来院時の両方が130/80以下になればOKです。自分で血圧を下げたい方は減量を2-3kgすると降圧剤1錠ぐらいの効果がありますね。

糖尿病

肥満、糖やアルコールの過剰、運動不足によって糖質過剰となり膵臓が分泌するインスリンが不足して血糖値が上がり血管が老いていくのが糖尿病です。ビグアナイド、SGLT2、DPP4など低血糖を来さない糖尿病治療薬が開発されてきたことにより、安心して糖尿病を治療できるようになりました。今までは糖尿病のコントロールはHbA1C7までで満足していましたが、睡眠時無呼吸をしっかり改善させるためにはHbA1C6.2以下の正常を目指す厳格コントロールがお勧めです。もちろん薬だけでなく、糖質アルコール制限、体重コントロール、週3回は汗をかく運動が必要です。

脂質

悪玉コレステロールは140以下を目指しましょう。卵は1日1ケまで、黄身は捨て、シシャモ、タラコは控えましょう。運動を増やしてLDLを下げてHDLを増やしましょう。自分の努力で達成できない方はコレステロール合成を抑制するスタチンか、筋肉痛の起こりやすい方は吸収を抑えるゼチーアを投薬してもらいましょう。LDLが高いと白血球がこれを食べてダメな白血球になります。血管は内皮細胞の脱落などで痛みますがこれをダメな白血球が修復すると修復が不完全で、田舎のでこぼこ道のような血管になってしまいます。中性脂肪は150以下を目指しましょう。ドロドロの血液は睡眠中枢の脳梗塞を起こしやすくしますので糖質、果物、炭水化物、お酒を減らして運動を増やしましょう。

尿酸

尿酸はプリン体という細胞の核の代謝産物で、ビール、レバー、小魚、シラス、モツ、焼き鳥、ハラミ肉、鍋、出汁に多く含まれ、アルコール、脱水や利尿剤によって排泄が阻害されて上昇します。尿酸は尿酸塩として関節や血管に沈着し、痛風発作、動脈硬化、腎障害の原因となり、睡眠時無呼吸を悪化させます。食生活に気を付けて、アルコールを控え、野菜と水分を十分摂取することが必要です。

動脈硬化による不良な血行を改善する食品と薬物

動脈硬化は血管の加齢によって起きる血管の変化で、血管内腔の狭窄、血管壁の硬化、血管の延長、拡大と収縮をきたします。タバコ、肥満、高血圧、高血糖、脂質、尿酸などの影響で起きてくるので、その原因を除去するのが原因療法です。その一方、動脈硬化で起きる睡眠中枢の血行障害に対して、直接血管や血液に作用して血管を拡張し、血流を改善し、血液をサラサラにする代表的な薬物がイワシ油であるEPAです。その他、サバ油のDHA、オリーブオイル、えごま油、アマニ油、ゴマ油、大豆などのサプリや食品、血管を拡張させるプロスタグランジン製剤、心機能改善と血管拡張で血流を改善して血液をササラにするシロスタゾールなどが挙げられます。

まとめ

睡眠時無呼吸というと、対症療法であるCPAPという器械が治療法として有名ですが、睡眠時無呼吸の原因である気道閉塞と睡眠中枢の血行障害に対する原因療法が大事です。血行障害の治療はすなわち血管の加齢の治療であり、老化の治療そのものになります。イビキや呼吸停止という睡眠時無呼吸を指摘されたら、それをきっかけに全身と血管の加齢のコントロールを行っていきましょう。(爽心会 心臓クリニック藤沢六会 磯田 晋)