逆流性食道炎は狭心症や気管支喘息の原因になります。
逆流性食道炎のメカニズム
食べ物を飲み込むと食道を通って胃、その後十二指腸を通って小腸、大腸へ流れていきます。食べたお肉やお魚などを消化するために胃は塩酸を含む消化液を分泌します。胃は同時に粘液を分泌して胃自身の表面をコーティングして、胃酸が直接胃の粘膜に触れて自己消化によって胃炎や胃潰瘍になることを防いでいます。一方食道は食べ物を通過させる管で消化液も粘液も分泌しませんので、ここに胃酸が来ると食道の粘膜がただれて胸やけなどの症状が出ます。食道と胃のつなぎ目の壁には括約筋という境目を締める筋肉があり、また食道の外には横隔膜という筋肉があり、胃に落ちた食事が食道に戻らないようにつなぎ目を外から圧迫しています。加齢によって全身の筋力が落ちると、横隔膜の筋力が低下してつなぎ目の外からの圧迫力が低下します。また肥満によって腹部の圧力が強くなると胃の内容を圧迫して食道に戻りやすくなります。更に状態が悪くなってつなぎ目が上にずれて胃の一部が横隔膜を超えて胸の方へ滑り出してしまうと、胃と食道の間のつなぎ目の外からの圧迫がなくなりますので胃酸は食道にこみあげて、胸焼けや呑酸と呼ばれる口に苦みがこみ上げる状態になります。
症状
胃から食道への逆流は、胸焼けや口の苦み以外に、自律神経を障害する影響があります。狭心症、不整脈、気管支喘息、これらの病気は自律神経が障害を受けると悪化します。胃酸がこみ上げることによって冠攣縮と呼ばれる心臓の血管の痙攣が起こって胸痛、息切れ、胸の圧迫感をはじめ放散痛と呼ばれる広い範囲の痛みを来します。放散痛は顎、歯、耳、喉のつかえ、背中、肩、腕、上腹部にわたります。また動悸、脈が跳ぶなど不整脈の原因になります。胃酸の逆流によって気管支の平滑筋が攣縮すると気管支喘息となり、咳、息がヒューヒュー、呼吸困難の原因ともなります。
治療 自分でできる事と投薬
体を起こしていれば胃酸の逆流は起こりにくいのですが、横になると逆流しやすくなります。胃の中に入った食物が胃の出口を通って腸に流れるのに1時間ぐらいかかりますが、腸から胃に戻ることは少ないので、夕食から横になる迄の時間を2時間ぐらい取りましょう。また朝昼の食事量を多めにして夕食の量を減らしましょう。食べ物の種類では、胃腸の流れを悪くしたり、胃酸の過剰分泌の原因になる揚げ物、肉、脂っこいもの、塩味の濃いもの、香辛料、炭酸水、コーヒーやアルコールの過剰などを控えてください。食事初めに水分やスープを取って、線維の多い野菜多めの食事が胃腸の流れをよくするのに好ましいですね。便通を良くして食べたものが速やかに腸に流れるようにしましょう。腹部の圧力が高まると逆流しやすいので、お腹の多くの部分を占める腹腔内脂肪を減らすために痩せましょう。糖質、果物、お酒、炭水化物を減らして運動を増やして腹腔内脂肪を減らして腹部の圧力を落としましょう。胃の出口は右側にありますので食後2時間以内に寝る時は右を下にして胃に食べ物がよどまないようにします。逆に左を下にすると食道と胃のつながり部分が狭くなって逆流が減るという意見もありますので上向きでなければ左右どちらでもいいのかもしれません。投薬では胃酸を減らす薬が主として用いられます。市販薬であるガスターに代表されるH2ブロッカーがまずは手軽です。内服したり止めたりは自分の判断でできます。もう少し強力なのがPPI(プロトンポンプインヒビター)ですが、自己判断休薬でリバウンドが来ることがありますので、医師と相談しながら減量や弱い薬へ切り替えてから中止しましょう。タケキャブという薬がPPIの中でも最も強力ですが、あまりに強力なために胃酸の酸をほぼ中和してしまい、口から入った雑菌を腸で繁殖させてしまうリスクがあり、腸内細菌叢の悪化によって年間の生命リスクが0.5-2%上がる可能性が指摘されていますので、症状がコントロールできるなら中ぐらいの強さのPPIの方がいいかもしれません。我々循環器医は心筋梗塞後やカテーテル手術後に血をサラサラにする薬を出して、自分の出した薬で消化管出血を来すリスクが後ろめたいので、すぐ最強のタケキャブを出しますが、それによって他のリスクが増えることがあるかもしれないと理解している循環器医がどれだけいるやらと自戒を込めて反省しております。胃酸を減らすのではなく、胃から腸への流れをよくすることで胃酸の逆流を減らすには、六君子湯などの漢方薬、ガスモチン、ナウゼリンやプリンペランなどの薬物が胃の中での食物の停滞を防ぐのに有効です。
まとめ
逆流性食道炎は加齢、肥満、食生活などで引き起こされる病気で、自律神経に障害を来して狭心症や気管支喘息の誘因にもなります。減量や食事について自分でできることをやったうえで薬の力も借りましょう。