期外収縮と言われたら

期外収縮の仕組み

心臓は、リズムどりの社長さんである洞結節が「今だよ」、と発信して心房を収縮させ、次に部長さんである房室結節がそのリズムを受けて約0.2秒後に心室に伝えて収縮させることで、心臓はドッキンドッキンと動きます。期外収縮の「期外」とは本来の社長さんの定期的なリズムでない、他の誰かの不定期のリズムということです。この期外収縮が心臓の上の方の部屋である心房から起きる場合を「上室性」、下の方の部屋である心室から起きる場合を「心室性」と呼びます。期外収縮は1日20回以下ぐらいが正常です。期外収縮の数が増えると健診の30秒間くらいの心電図で見つかるようになったり、脈をとると脈が飛ぶ結滞と呼ばれる症状で見つかったり、敏感な方だと動悸として感じたりします。

原因を考える

期外収縮は心臓の電気的年齢の加齢の一つの現れですが、若いころから期外収縮の多い方がいらしたり、原因があって増えてくることもあります。イメージとしては心筋に何らかの傷がついたり、環境が悪くなると出やすくなると考えてください。心臓は自律神経で調節されています。自律神経が何らかの環境で興奮すると脈が速くなり、期外収縮が出やすくなります。甲状腺ホルモンの過剰、カフェイン、深酒、タバコ、睡眠不足、運動不足、ブルーライト、脱水、ミネラルの不足、胃酸逆流、体位などの環境が影響します。また自律神経の興奮しやすい敏感な方は、遺伝でご両親や祖父母から受け継いでいる方が多いようです。心筋に及ぶ物理的なストレスも大きな原因です。左心室の機能の低下、高血圧や心臓のドアの故障である弁膜症などによって左心房という血液の貯蔵庫が大きくなって心房の壁が引っ張られると期外収縮は出やすくなります。タバコや気管支喘息で右心室に負荷がかかり、右心房が拡大しても期外収縮は出やすくなります。冠攣縮や動脈硬化による狭心症によって心筋の血の巡りが悪くなる方でも期外収縮は出やすくなります。

上室性の期外収縮と心房細動

上室性の期外収縮では、左心房が肺静脈に繋がる場所などにいる、リズムどりの副社長である心筋が傷つけられてせっかちになり、シグナルを右心房にある社長さんより早く出すために、早い者勝ちの電気信号が心臓のリズムを乗っ取ります。副社長さんのリズムが単発の内は問題ありませんが、副社長さんの指令が心房の中をぐるぐる回り出すと心房細動という困ったリズムになります。心房細動では心房は規則的に収縮しなくなり速いリズムで心房はブルブルと震えるようになり、ドッキンドッキンではなくブルブルキン、ブルブルブルキンという動きになり心機能は20%ダウンします。ブルブルで血液の洗い流しが悪くなって左心耳というくぼみに血糊が固まって脳に飛んでいく脳梗塞にざっくり5倍なりやすくなります。敏感な方はこの心房細動になるとドキドキ不愉快な動悸を感じるようになります。この心機能低下、脳梗塞、動悸の3つが心房細動の大きな問題です。上室性期外収縮が多い方はこの心房細動になるリスクが高いということですので、可能なら予防策を講ずるべきでしょう。

心室性の期外収縮

心室性の期外収縮では、会社で言ったら社員にあたる心筋が傷つけられてせっかちになり、右心房の社長さんよりも早くシグナルを出すために、リズムどりを一時的に社員に乗っ取られる状態です。心室性期外収縮の原因となっているカフェイン、深酒、タバコ、睡眠不足、ブルーライト、脱水、ミネラル不足などの生活習慣に加え、動脈硬化、糖尿病、高血圧、狭心症、心筋梗塞、心肥大、弁膜症など原因となっている原疾患のコントロールが必要です。心室性期外収縮が単発なら大きな問題はありませんが、社員のリズムが心室をグルグル回ると心室頻拍という危険な状態になります。脈の数がゆっくりなら大丈夫ですが、毎分160-200回以上になると立ち眩みがして、脳貧血になって、倒れやすくなります。

期外収縮と冠攣縮性狭心症

ドキドキしやすい方は、息苦しくなりやすかったり、胸が締め付けられやすかったりします。自律神経が敏感な方は、自律神経のシグナルが脈を増やしたり、期外収縮を増やすのと同時に、自律神経の興奮が冠動脈の攣縮を起こさせて狭心症を発生しやすくなることがあります。冠動脈の攣縮が繰り返されると、心房や心室の血行が不良となり、それぞれに傷がついてさらに期外収縮が増えていきます。タバコも吸わないし、血圧も高くない、動脈硬化もないのに期外収縮だけ若いころから指摘される方の多くは、ご両親から遺伝で引き継いだ冠攣縮による心筋の虚血が心房や心室の心筋に傷をつけて、これが期外収縮の原因となることが多いようです。期外収縮を心電図で指摘された方はホルター心電図という1日心電図を計測して、冠攣縮性狭心症の存在を調べ、冠攣縮をきたしているときに期外収縮が誘発されないか、起床覚醒時に期外収縮が増えて、自律神経の興奮が期外収縮に影響を与えているかを調べます。冠攣縮で期外収縮が誘発されるなら、軽度の冠攣縮ではイワシ油のEPAや冠動脈拡張効果を持つ葛根湯、より強い冠攣縮ではCa拮抗薬やニトロ製剤などの冠拡張薬を使用することでさらなる期外収縮の悪化を防ぎ、心房細動や心室頻拍への移行を減らせる可能性があります。自律神経の興奮で期外収縮が増える影響があるようなら興奮をブロックするβ遮断剤が期外収縮を減らす可能性があります。

期外収縮の原因を検査で探る

期外収縮の多い方は、陰に潜む原因の検索と、それに対する対処が必要です。診察と検査を通して原因を探りましょう。まずは問診と採血でカフェイン、深酒、タバコ、睡眠不足、運動不足、ブルーライト、脱水、ミネラルの不足、甲状腺ホルモンの過剰、などの環境を探り、必要に応じて修正しましょう。心電図では、左房負荷、右房負荷、心肥大、心筋負荷、虚血のあたりをつけましょう。胸部X線像では心拡大、左房拡大、右房拡大、大動脈石灰化と蛇行を調べ、脈波計で動脈硬化や末梢血管の収縮を調べます。心エコーでは、心房拡大、心筋肥厚、弁膜症、心拡張障害、心室拡大、心収縮能低下、壁収縮異常といった物理的な問題を探りましょう。ホルター心電図では期外収縮を含めた不整脈の状態、狭心症の状態を調べます。トレッドミル運動負荷心電図を用いて、運動誘発の冠攣縮、冠動脈の狭窄、運動時の高血圧、運動時の期外収縮の誘発、心房細動や心室頻拍の誘発を調べます。この運動負荷の検査を通じて運動時の安全確認と薬物治療の方向性を確認します。冠動脈の狭窄による労作性狭心症が疑われる場合は造影剤を点滴して冠動脈CTを施行して冠動脈の狭窄を確認しましょう。

期外収縮の背後にある問題の修正

期外収縮の背景因子に合わせて、問題へのアプローチが異なります。喫煙、カフェイン、ブルーライト、食生活、飲酒などの生活習慣の問題は可能な範囲で整えていきます。

上室性期外収縮の場合にはまずは左房と右房への負荷を検討します。左房拡大の原因が高血圧なら降圧、頻拍なら頻脈の回避、体重過剰なら減量、適度な運動の指導、末梢血管の動脈硬化や血管収縮の場合はEPA、αblockerや各種血管拡張薬、弁膜症が重度なら弁膜症の治療が必要かもしれません。右房拡大があれば過剰な体液のコントロールが必要です。MRB、スピロノラクトン、サイアザイド利尿薬、ループ利尿薬を微調節しながら適切な血液ボリュームと電解質の調節を行います。自律神経の興奮が修正すべき問題であることもありますので、自律神経を乱している、鉄欠乏や腎性の貧血、逆流性食道炎、睡眠不足、自律神経失調について調整します。期外収縮が起床、覚醒、運動で誘発される場合は、自律神経の興奮を心臓に伝えることをブロックするβ遮断薬が有効でしょう。症状を取りたい場合は抗不整脈、ジギタリス、漢方薬なども選択されます。

心室性期外収縮多発の場合は心肥大、心虚血、アルコール性を含めた心筋症などに対して、生活指導、ACE、ARB、Ca拮抗薬、β遮断、冠拡張薬、EPA、漢方薬などを利用して心筋の回復を図っていきます。心肥大があれば心肥大を軽減させることを目指し、心拡大や拡張障害があればこれが回復していくようにめざします。動脈硬化による心筋虚血に対して血行再建が必要な場合はカテーテル治療を行います。弁膜症が重症の場合には逆流や狭窄に対する治療が必要な場合があります。自覚症状が多いときはメキシレチンをはじめとする抗不整脈薬、漢方、安定剤など対症療法的なアプローチも行います。

まとめ

期外収縮そのものは良性と言われ、放置してかまわないという考え方もありますが、電気的な加齢である期外収縮を起こしている原因を考えるときには、修正すべき健康寿命に影響を与える因子が潜んでいる可能性を考えながら症状の改善も含めて丁寧なアプローチが必要と思われます。