浮腫(むくみ) その1: 静脈とリンパ管
静脈とリンパ管足のすねの骨に向かって指を押し付けると指が沈んでいくのが浮腫、むくみです。皆さんむくみを嫌がりますが、多少のむくみは体の中の体液の貯蓄ですので、「熱中症や脱水症を避けるのに左右の足に経口補水液が500mlずつキープされている」程度に思ってください。靴が履けなくなったり、痛みが出るようなむくみは改善した方がよさそうです。
むくみは血管やリンパ管の外である細胞間質という場所に体液がよどむ状態です。まずは一般的によくあるむくみの原因を考えましょう。人間は立ったり座ったりして活動しますが、すると足は心臓より1m前後、低い場所にあることになります。1mの水圧は76mmHg、動脈圧の半分ぐらいですから、かなり高い圧力が足の静脈やリンパ管にかかるポテンシャルがあり、高い圧力で血管内やリンパ管の中の液が細胞間質に漏れだしやすい状態にあります。幸い静脈やリンパ管には所々に弁というドアがあり、心臓の方から逆流しようとする体液の圧力を受け止めてくれます。また足踏みや筋肉の収縮などによって体液の淀みを心臓に向かって送り返すと、局所の静脈やリンパ管の圧力が下がって、むくみにくくなります。このしくみからわかることは、足のむくみをとりたければ、まずは足を挙上することです。横になって寝る時に、足の下に毛布や布団を入れて5-10cm高く挙上して休めば、たいていのむくみは朝には取れています。薬局で売っている弾性ストッキングを履くと、足の外から圧力がかかって静脈とリンパの体液を上に向かって押し返してくれます。座ったり立っている時には15-30分に一度は5-10回ぐらい足踏みをしてむくみを心臓に向かって追い返すことがお勧めです。
静脈は、立ち仕事や妊娠分娩によって高い圧力にさらされると徐々に拡大して、静脈のドアである弁が緩みやすくなり逆流の原因になります。また静脈の血液がよどむために血栓ができて、静脈に炎症が起こるとしなやかな弁が硬くなりドアとして機能しなくなり逆流が起こります。静脈の弁機能の悪化は、さらに静脈への圧力の負荷を強めますので、連鎖的に静脈が膨らんで静脈瘤をつくり、血液の淀みの原因になりむくみが起こりやすくなります。下肢の静脈には浅いところの静脈と、深いところの静脈があります。浅いところの静脈瘤は目立ちますが、深いところの静脈のドアが保たれていれば、浅い静脈の逆流を深い静脈がくみ上げてくれるので、大したむくみの原因にはなりません。深い静脈が血栓や静脈炎でいたんでドアが損傷されると、浅い静脈の逆流をくみあげられなくなりますので、静脈の圧力が上がってむくみやすくなります。逆流する浅い静脈はレーザーで焼いてしまう治療がありますが、深い静脈の弁不全は治療が困難です。
リンパ管はリンパ管炎、放射線治療、リンパ節郭清などで傷んでしまう事があります。リンパの弁不全や淀みも重力と運動で多少は改善しますがなかなか手ごわいものですが、形成外科でリンパ管を静脈につないでリンパ浮腫を改善する方法があります。
薬による治療では利尿効果のある薬物が用いられます。全身の体液の量を減らすことで静脈やリンパ管の圧力を下げてむくみを減らします。副作用としては脱水症、熱中症、尿酸の上昇、腎障害、血栓症などが起こりやすくなりますので、むくみが減ってきたら休薬しましょう。
まとめ 一般的なむくみの原因は血液やリンパ液の淀みが多く、足踏み、足の挙上、弾性ストッキングの装着、薬物治療で改善することがあります。(心臓クリニック藤沢六会 磯田 晋)
