飲酒と心房細動

心房細動と診断された方でお酒をたしなまれる方は注意が必要です。普段は心房細動がなく、時に心房細動になる発作性心房細動の方は、心臓の電気をとりまく環境によって心房細動を起こしやすくなります。アルコールは利尿効果を持ちますので、水分、塩分、カリウム、マグネシウムを尿中にロスしていきます。お酒を飲んだ後にラーメンを食べたくなったり、翌朝味噌汁、トマトジュースやスポーツドリンクを飲むことで体が回復するのは、失われた水分とミネラルを補充する意味があります。体内の水分と塩分が失われることは、血液や体液を減らすことになります。血液体液が減ると、自律神経が興奮して、アドレナリンを増やすことで、心臓は心拍を増やして心拍出量を維持しようとします。この時自律神経の興奮とアドレナリンが心臓を鞭打って心房細動が起こりやすくなります。またアルコールは血管の拡張効果がありますので、拡張した血管を満たすためには、より多くの心拍出を必要としますので、ますます心臓に鞭打つことになり、心房細動がおこりやすくなります。

次に飲酒が脳梗塞のリスクを増やすことを考える必要があります。もともと心臓のリズムは洞調律といって、心臓のリズム取りの社長さんである洞結節(田原先生が発見したので田原結節とも呼ばれます。)の号令に従って心臓の上の部屋である心房が収縮して、次いで心室という心臓の下の部屋であるメインポンプが収縮して血液を全身に送り出します。心房細動になると心房がブルブル震えて収縮しなくなり、左心房にある左心耳というくぼみに血液がよどみますので、ここで血液が固まって血糊である血栓を作ります。この血栓が血流にのって飛んでいくと脳の血管に詰まって脳梗塞をおこします。心臓から飛んでいく血栓は大きめですので運が悪いと半身まひや車いすの原因になったりします。飲酒は先ほど述べたように心房細動の頻度を増やして脳梗塞を起こしやすくするのに加えて、飲酒のもたらす体液の濃縮が血栓を作りやすくなるために脳梗塞を増加させます。

心房細動では脳梗塞の発症を減らすために血液をサラサラにする抗凝固薬を飲んでいただくのですが、多量のアルコール摂取はこの抗凝固薬の副作用である出血を起こしやすくします。肝臓は血液凝固の因子を作っているのですが、多量のアルコール摂取が肝臓の血液凝固因子の産生を障害します。血液をサラサラにするする薬は血栓を減らすことで脳梗塞を減らすのですが、同時に体の中での出血を起こしやすくする副作用を持っています。出血は鼻出血、胃腸やお尻から血が出て便が赤くなったり黒くなったりする消化管出血、腎臓、膀胱など尿路から出血して血尿をきたす尿路出血をきたしたり、脳の中で出血して脳卒中の原因になるなど時に命に係わる大きな問題です。

心房細動では加齢、高血圧、脳卒中の既往、低体重、糖尿病、心不全、血管の病気の方はより脳梗塞を起こしやすいので注意が喚起されていますが、飲酒は心房細動の起こりやすさを増やし、脳梗塞や脳出血の原因となる因子です。お酒をたしなまれる方で心房細動を指摘された方は頑張って禁酒日をつくってお酒を控えめになさってください。多量のカフェイン摂取もお酒と同様に心房細動を起こしやすくしますのでほどほどにお願いします。(爽心会 心臓クリニック藤沢六会 磯田 晋)