冷え性や神経痛に効く降圧薬
冷え性は、体液の不足と動脈の過剰な収縮によって、手や足といった末梢の循環の障害によって血液による温度の流入よりも放熱が多いことでおこります。一方で神経痛は神経に流れる血流が不足すると神経が強い痛みを発生するもので、冷え性を改善すると、神経痛も改善しやすくなります。さて、冷え性の改善方法を考えましょう。まず体液を増やすには塩分、経口補水液やスポーツドリンクの摂取、あるいは葛根湯、補中益気湯や人参養栄湯のような体液を増やすカンゾウという成分を含む漢方薬、ミネラル、鉄分やタンパクの十分な摂取などが有効です。体液が少ないと心臓が送り出す血液の量が少なくなるために、脳や内臓など大事な臓器への血流を優先して、手足のような必ずしも血流が豊富に必要のない部分の血管が閉めることでバランスをとります。体液が増えると心臓が送り出す血液の量が増えるので、手足のような場所にも血が巡るようになります。高血圧は血管の収縮によって起こるので、この血管収縮を拡張する降圧剤を内服することで、全身に血液が巡りやすくなります。血圧が下がると心臓が持ち上げる重さ(血圧)が減るので同じ体液の量でも血流量が増えて冷え性が治りやすくなります。代表的な降圧剤であるカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ニフェジピン、アゼルニジピンなど)やARB(オルメサルタンなど)でも冷え性は改善します。冷え性に最も有効なのは、手足の動脈収縮を拡張するアルファ遮断薬であるドキサゾシン(カルデナリン)です。アルファ遮断薬の弱点は手足の動脈収縮を弱めるために、立ちあがった時の動脈収縮反応が弱くなるので、人によって立眩みが起きることがあることです。冷え性のほかに、血流の障害で神経の痛みが出る神経痛、ヘルニア、すべり症、脊柱管狭窄症など整形外科的原因で起きる神経痛においては、血流改善効果によって神経痛の改善効果があります。立ち眩みのためにアルファ遮断薬が使えない方は、降圧剤ではありませんが、イワシの油であるEPAが冷え性や神経痛改善におすすめです。その他、ある種の強心剤であるプレタールという血管拡張薬は特に足の動脈硬化に伴う冷え、歩行距離の減少、下肢の疼痛改善に用いられます。降圧剤では冷え性や神経痛に向かないものもあります。心臓の働きを抑え、脈をゆっくりにして心臓の寿命を延ばすベータ遮断薬は血液の拍出量を減らすことが多いので、冷え性や神経痛が起きた時には、心臓に対するメリットと冷え性や神経痛のバランスを考えて調整する必要があるかもしれません。また降圧利尿剤、トリクロルメチアジド(フルイトラン)、スピロノラクトン(アルダクトンA)やエサキセレノン(ミネブロ)では体液量を減らして心臓の負荷を減らしますが、血流量そのものは減らしますので、冷え性や神経痛にはあまり有利とはいえません。
まとめ
冷え性や神経痛に有利な降圧剤は、アルファ遮断薬が最も有効で、カルシウム拮抗薬とARBか続きます。一方ベータ遮断薬や降圧利尿剤は冷え性や神経痛が出やすいので、降圧剤に求める効能とのバランスを考えて調整します。(心臓クリニック藤沢六会 磯田 晋)