体の痛み 内科にできる事 ② 血の巡り

痛みは神経が感じますが、神経は、血の巡り、栄養、物理的圧迫、筋肉の状態、脳神経、内分泌の状態などの影響を受けます。あなたの痛みは何で誘発されているのでしょうか?

神経と物理的な血行障害

神経の修復と神経の機能維持にとって血流が重要なファクターです。神経の血行不良は神経の悲鳴である神経痛という強い痛みを引き起こします。まず物理的な血行障害について考えましょう。椎間板ヘルニアや腰椎のすべり症などによる脊柱管の狭窄が脊髄を圧迫しますので、神経細胞への血行が不良になり、強い痛みが起こります。神経はその手足である軸索を、臀部、大腿、下腿や足先まで伸ばしていますので、神経の細胞がある脊髄や、神経の根が通る脊柱の骨の出口の物理的な障害がお尻や足の痛みとして出現します。手、腕、肩の痛みは頸椎の障害によって起こることが多いようです。むち打ちをかつてやったことのある方は10年以上たってから、加齢、筋力低下、血行障害から症状が出ることもあります。痛い場所に湿布を張っても改善しない場合はその場所の神経の源がどこにあるのかを考える必要があります。頸椎や腰椎周辺の神経の血流改善のためには腰や首の血流を良くすることが大事です。そのためには首や腰を温めたり、緊張している筋肉をほぐしたり、低周波で電気刺激したり、全身の血の巡りを良くすることが必要です。

神経と局所の血行障害

局所の血流は局所の温度、自律神経、2酸化炭素濃度、静脈還流、動脈血流、筋肉の緊張などで調節されます。首を冷やすと首の血流は悪くなります。肩こり、首の痛み、後頭部の頭痛のある方は首を温かくした方がいいです。膝や手首などに痛みがあれば医療用サポーターで保温してください。局所の温度が上がれば血流がよくなりますので、神経や筋肉の血流が改善して、十分な栄養や酸素が運ばれます。冷えると局所の血流低下、酸素供給の低下、栄養供給の低下が起こり、痛みが起こりやすくなり、また回復しにくくなります。入浴は熱によって物理的に体表温を上げて、血管を広げていきます。十分温まると汗が出て、もうこれ以上温める必要がない、整った状態になります。さてそのあとが大事で、お風呂上りに体を冷やすと元の木阿弥ですから、タイツ、エリマキや腹巻などで温かい状態を保温してください。痛みが入浴で改善する方は血流の不良が痛みの原因であることを意味しています。

さて局所の血流をコントロールしている因子に2酸化炭素があります。2酸化炭素がたまると血管は広がります。これは運動によって産生された2酸化炭素を排泄する目的で筋肉や皮膚の血管が開くものです。精神的興奮で頻呼吸になり血中の2酸化炭素が下がると、手足の血管がしまって冷たくなります。運動で血管が広がるように、お風呂に入浴剤を入れると2酸化炭素が皮膚から吸収されて血管が開きやすくなります。

静脈の淀みも局所の血流に影響します。足がつりやすくなるのは、静脈の淀みによる血行障害の影響で下腿の環境が悪化するせいです。また下腿の痛みも静脈のうっ滞による血行障害が多いので、踵落とし、あるいは貧乏ゆすりを15分に1セットやりましょう。静脈がよどむと血流そのものが悪化しますので、足を高くして寝る、メディキュットのような弾力のあるストッキングをはくのも一つの方法です。静脈のよどみの改善には物理的な筋肉収縮、圧迫、重力と心臓の位置関係が主たるものです。静脈のうっ滞による血栓形成を抑制する薬はありますが、血行障害を直接改善する薬はありませんので、動脈血行をイワシ油であるEPA、プレタール、プロスタグランジンなど動脈血行を改善することで、その先にある静脈の血流を改善することになります。

筋肉の緊張や拘縮は血流を悪化させますので、原因となっているブルーライト、緊張、痛みなどの原因を除去する事で血流が改善します。マッサージもいいですね。

全身の血流の改善による神経環境の改善

全身の血流を決める要素は、体液や血液の量、自律神経の調節と末梢血管の広がり、心臓の機能、アドレナリンなどの内分泌などです。

体液量を決めるのは塩分、水分、血の濃さ、たんぱく質、糖質とミネラルなどです。血圧が高めで塩分を控える事はよく浸透していますが、塩分は体液の浸透圧バランスの主役ですので、塩分が足りないと体液の量が減って血流量が減るということも考える必要があります。暑い日にお出かけして、指や足が冷たい、くらくらする、調子が悪い、疲れた、水を飲んでも改善しない、これは塩分低下による熱中症の可能性が高いですので、経口補水液などのアイソトニック飲料、スープ、梅昆布茶、温かいそばやうどん、ラーメンなどで塩分を摂取しましょう。もともと動物は海で生まれましたので、陸に上がるときに海を体液として体の中に海を再現したものです。塩分がなければ淡水に追われた海の魚のようなものです。武田信玄ではありませんが塩を大事にしましょう。喫茶店に入って塩分の入ったドリンクがなければ、糖質の入ったいわゆるジュースなどの飲み物でも一時的に浸透圧は保たれますので、水よりは吸収がよく体液を一時的には増やしてくれます。食事の摂取でももちろん結構です。食事に含まれるタンパクなどは膠質浸透圧といって、塩分を中心に保たれる晶質浸透圧と並んで大事な浸透圧維持に貢献します。赤血球は血液全体の30-45%を占めますので。貧血の方は体液の量が不安定になりやすくなります。生理のある女性はいつの間にか鉄欠乏の貧血になりがちですので、ブロッコリー、ほうれん草以外の緑の野菜、カツオ、シラスやレバーを食べて鉄を補充しておいてください。経口補水液は塩分、カリウム、マグネシウム、ゼリーなどによる膠質浸透圧でアイソトニックな環境を作って吸収しやすく、また体液として長い時間保持しやすくできています。もっと自然に吸収したければ、豆腐(Mg)、野菜(K)、海藻(膠質)の入ったお味噌汁(塩分、アミノ酸)を摂取する事などが安価で手軽です。漢方薬も体液を増やすのに役立ちます。葛根湯や補中益気湯などは体液の素という感じで、スポーツドリンクの素に水を足すとスポーツドリンクができるように、葛根湯を飲んで水を飲むと、体液がふえるというイメージです。漢方薬の成分であるカンゾウは体液を増やすので、微妙に血圧をあげることもありますが、痛みを抑えるためにはまず豊かな体液が必要です。十分な体液を確保し、十分血管を広げることが神経の環境を良好に保つために重要です。そのうえで血圧が上がれば、現代は優秀な降圧剤が数多くありますのでこれを用いていけばよろしいかと存じます。

次に血流に大きな影響を与えるのは自律神経です。自律神経の緊張はコーヒー、ブルーライト、睡眠不足、ストレス、深酒、タバコ、緊張、寒冷、脱水、歯周菌が多い状態、ウィルスなどの感染、痛みそのもの、などで全身の血管が収縮して、痛みの原因になります。自律神経が緊張すると毛細血管は収縮して、体が冷えてしまいます。冷えるとますます血管が収縮する悪循環に陥ります。現代人はスマホ、PC、映像やゲームからブルーライトを大量に浴びていますので、PCやスマホでは設定-画面の明るさ-night shiftや夜間モードを使って80%ぐらいカットすると自律神経が落着いて血の巡りも改善しますね。タバコ、カフェイン、飲酒など人は刺激を求めてその刺激の陰に隠れる毒によって自律神経を乱されますので、自分の体を思いやって自分を制御して、自分の自律神経を整えてください。その他、入浴したり、入眠剤を使ったり、EPAで血管を広げて、必要に応じて安定剤で緊張を取るなどが必要ですね。

心臓の機能が落ちると血流が改善しにくくなります。体液を多くしないと血流が稼げないので、体内に塩分と水分を貯めこみながら血流量を保つのがうっ血性心不全で、足がむくんだり、息が苦しくなったりしますね。心臓の基本的な機能を胸部X線、心電図、心エコーなどで確認することが必要です。末梢血管が硬くなり、締まっていると、心臓が血流を送りたくても血圧ばかり上がって、体の隅々に血流は巡りません。これはよくある高血圧の状態で、血圧が高いのは必ずしも血の巡りがいいことではなく、むしろ血管の抵抗が増えて、血流は低下していることが多いです。降圧剤やイワシ油のEPAで血管を広げて血流を改善して、全身の血の巡りを良くしましょう。

甲状腺や副腎のホルモンも血行に影響を与えます。副腎から分泌されるドーパミンは利尿効果があるため、脱水になりやすく、痛みの原因となることがあるようです。冠攣縮性の狭心症や全身の痛みの陰にドーパミン過剰が隠れていることがあり、痛みがなかなか取れないときには採血で調べてみる価値がありそうです。

痛みの原因は様々ですが、神経は血の巡りの大きな影響を受けます。血行を改善して痛みを軽減しましょう。(爽心会 心臓クリニック藤沢六会 磯田 晋)