冷え性

冷え性は手足の血の巡りの不良です。冷え性の原因は、1. 血液と体液の不足、2. 自律神経失調などによる末梢血管収縮、3. 心機能低下、4. 薬物の影響、などです。

1. 血液体液の不足:①塩分 体液の浸透圧が低いと水分は尿中へ排泄され、血液と体液は不足します。浸透圧の維持で最も大事なのは塩分です。塩分が不足して血液が減ると、心臓や脳などの重要な臓器の血流維持のために、手足の血管が締まって手足が冷えます。さらに塩分が不足すると脳血流が悪化して意識が低下しますが、よく知られているのは熱中症による塩分低下ですね。塩分は味噌汁、スープ、梅昆布茶、発酵食品などに多く含まれますので冷え性の方は積極的に摂取しましょう。手足が冷える方は体液で約500ml不足していますので、経口補水液を500mlあるいは、味噌汁とおかずとご飯を摂ってお茶を飲んで全部で500g摂取すれば体液が500ml増えます。健康のための減塩信仰が良く浸透していますが、血圧が高くないのに無理に塩分を制限して冷え性になる必要はありませんね。心配なら採血でNaを調べましょう。

②カリウム、マグネシウムやタンパク 次に浸透圧を上げるのは、野菜やおかずに含まれるカリウム、海産物や豆腐に含まれるマグネシウム、魚や肉からとるタンパク質、糖質などです。浸透圧が低下すると体液は細胞内や細胞の隙間に逃げて血液が減りますのでバランスの良い食生活は冷え性改善に大事です。減量するときは塩分、ミネラル、蛋白、野菜のバランスに注意してくださいね。

③貧血 鉄欠乏などで起きる血色素の減少により、血が薄くなることを貧血と呼びます。脳血流が減って、立ち眩みをきたすことを脳貧血と呼びますが、血が薄い貧血は脳貧血の一つの原因です。鉄欠乏で血が薄くなると手足の血流が悪化して手足は冷えます。鉄はブロッコリーや緑の野菜や内臓に多く含まれます。シュウ酸が多くて結石の原因になるホウレン草以外の緑黄色野菜、レバー、内臓を含むシラスや煮干しが鉄の摂取にお勧めです。若年女性は生理で貧血になりやすいので食品やサプリで鉄を摂取しましょう。

2. 自律神経と血管収縮による冷え性:自律神経が興奮すると、手足の血管が締まって冷えます。怒ったり、緊張すると、手がつめたくなりますね。自律神経を興奮させるのものでは、タバコ、カフェイン摂取、深酒、睡眠不足、運動不足、ブルーライト、精神的緊張、仕事のストレス、ホルモンバランスの異常、塩分や水分の不足、ミネラルのアンバランス、風邪やワクチン接種などがあげられます。タバコはニコチンで血管を直接収縮させるので冷えの大きな原因ですね。自律神経を整えるには一つ一つの生活習慣を見直すことが必要ですが、自律神経失調を薬でお手伝いする際には超長時間型の精神安定剤であるロフラゼプ(メイラックス)などを用いることもあります。睡眠不足に対しては最近ではレンボレキサント(デエビゴ)など、副作用の少ない睡眠薬が増えていますので以前より気軽に使えるようになりました。末梢血管を拡張するのに有効なのは、血をさらさらにするイワシ油であるEPAイコサペント(エパデール)、降圧薬であるα遮断薬ドキサゾシン(カルデナリン)、整形外科の先生が腰痛で処方するプロスタグランジン製剤、抗血小板作用と強心効果を持つシロスタゾール(プレタール)、ビタミンEなどです。バスクリンなどの入浴剤には二酸化炭素が含まれて、これは局所血流を改善します。冷え性の方にはお勧めですね。もちろん保温には血管拡張の効果がありますので冬に肩こりで苦労する方は、寝るときにマフラーを巻くと改善することがありますね。冷え性の検査としては、末梢血管のしまり具合はABIやPWVの指標でみる脈波計測で調べることができます。動脈硬化と自律神経の興奮による血管の収縮を測りますので、冷え性を把握する一つの検査と言えます。

3. 心機能低下:心臓が送り出す血流が低下すると、大事な脳や心臓や内臓の血流を保って、手足の血流が犠牲にされます。急性心筋梗塞のような突然心拍出量が低下する急性の心不全の場合は末梢の冷感が出現しますね。慢性の心不全ではバランスが保たれて、全身はできるだけ末梢の循環を保とうとしますので、手足の冷えは出ないときもあります。心機能低下をきたす原因は、心臓の筋肉の血の巡りが悪くなる狭心症や心筋梗塞、高血圧などで心筋が硬くなって障害を来す高血圧性心不全や心筋症、心臓のドアに異常がおきる弁膜症、リズムの異常で心機能が低下する心房細動などの不整脈、などがあげられます。心臓超音波検査、ホルター心電図という1日心電計、トレッドミル運動負荷検査などを用いると心機能低下の原因がわかります。

4. 薬物の影響:利尿剤の冷え性への影響について考えましょう。心機能の低い場合には体は体液を増やして心拍出量を上げようとしますので、肺に血がよどんで息切れがしたり、足に血がよどんでむくみます。この息切れを取ろうとしたり、足のむくみを取ろうとして利尿剤を使うと息は楽になって足のむくみは減りますが、血液が減ると真っ先に犠牲にされるのは手足ですから、結果的に手足が冷えることは多いですね。降圧剤として体液を減らすフルイトラン、ミネブロ、アルダクトン、セララなどの降圧利尿剤でも冷え性は起こりやすいですね。頻拍の治療や心筋の長生きの為に用いるβ遮断薬では末梢の血流を犠牲にしますので、冷え性になりやすいですね、β遮断薬が必要で冷え性が起きてしまった方には、イワシ油のEPAやα遮断薬であるカルデナリンを飲んで副作用防止をすることもありますね。漢方薬では、風邪の引き始めに使う葛根湯、免疫上昇に用いる補中益気湯や人参養栄湯など甘草を含む漢方薬は体液を増やす効果があります。体液の増加は血圧をわずかに上げることがありますが、冷え性のかたにはお勧めですね。ところで頭皮の冷え性は脱毛の原因となりますので、冷え性の治療には発毛のチャンスがありますね。EPA、葛根湯などは脱毛症の適応はありませんが効果が期待されます。

冷え性のまとめ、冷え性の原因には体液バランス、食事、貧血、生活、薬物などが挙げられます。自分の冷え性の原因を探って改善していきましょう。(爽心会 心臓クリニック藤沢六会 磯田 晋)