山歩きと水分塩分

今回は自分の体験も交えて、夏の山歩き、水分、塩分について考えてみたいと思います。今回山歩きをするのは、高血圧、脂質異常、軽度の耐糖能異常、軽度の冠攣縮性狭心症をもつ運動不足、山歩き経験不足の60代です。山に行く1日前から利尿効果があり熱中症を誘発する糖尿病薬SGLT2であるジャディアンスあるいはフォシーガを休薬します。高血圧や心臓病でフルイトラン、ミネブロ、アルダクトンA、ルプラック、ラシックスといった利尿剤を内服している方は休薬すべきでしょう。山の装備は軽いに越したことはありませんので携行する水分量は体力不足の自分にとって勝負どころ。今回の山頂アタックは尾瀬見晴(みはらし)の山小屋に不要装備を置いて、悪路で名高い見晴新道で燧ケ岳(ひうちがだけ)に上り、長英新道で降りて尾瀬沼沿いに帰ってくる長ルートです。山登りで必要な水分量の計算式は(体重+荷物)× 5(夏は7-8とも)× 行動時間(文献)で、今回は76kgx5x7h(水場まで)で2.7Lですが2.7kgは結構きつい。無謀な作者は粉のエブリサポートを溶かした経口補水液1000mlと、余れば濡れタオル用に使える500mlの水の計1500mlで臨みました。登りではほかの登山者にどんどん抜かれてドロドロの山道に翻弄されます。天候に恵まれて発汗は多く、10合目のうち1合ごとに休んでは100mlずつ水分補給。もっと飲みたいのですが過剰に飲むと尿になって無駄なので、少な目の水分補給にして、不足分はエブリサポートのタブレットをなめて浸透圧アップで体液を血管内に誘導して血液量保持を狙います。頂上までで1Lを消費し、濡れタオルはあきらめて、残りの水500mlに粉末エブリサポートを入れて下りに備えます。狭心症持ちの同行者は頂上の岩場で脳貧血を起こして転倒し、耳にかすり傷、幸い頭部打撲はなさそう、帰宅後肋骨骨折2本が判明しました。運動後は筋肉緊張低下で血管が虚脱しやすくなったところに、食事で腹部に体液をもっていかれて循環虚脱を起こしたのでしょう。休憩時の食事量は控えめにして、塩分補充は十分行い、運動再開時の準備運動を要するようです。尾瀬沼までおりてトイレへ、7hで出た尿は濃縮尿約100ml、思った以上に体は脱水状態にあるようです。尾瀬沼の水のおいしいこと、500ml近く飲んで胃はガポガポ、慌てて塩タブレット2ケなめて浸透圧を調整し、出発から宿に帰るまで9hで2.5Lの水分摂取でした。宿で体重計に乗ると-2kg、夏の暑さもあり4.5Lの水分喪失があったようです。上記計算式の係数を逆算すると標準5のところ6.6であり、摂取水分量の不足は体内の残存する体液から補われた様でした。翌日朝のトイレでは普段ないウサギ様の硬便による便秘、体は水分の不足量を腸の内容から吸収して血管を満たしたようです。携行水による荷物重量増加は嫌ですが、ケガや予定外トラブルの可能性を考えると、あと1Lは持っていくべきだったと反省しています。

さて山歩きの血管の虚脱を防ぐのには水分の絶対量に加えて血管の張りを維持する浸透圧が重要です。水だけ過剰に飲むと尿中排泄により塩分ミネラルが低下し、発汗によるロスと合わせて熱中症に陥りやすくなります。必要な塩分、ミネラルや糖質が浸透圧に与える影響力から考えると、おおむね塩分が10、糖質が4、野菜果物おかずに含まれるカリウムが2、海苔など海産物に含まれるマグネシウムが1ぐらいと考えられます。スポーツドリンクは理想的ですし、今時の塩飴にはナトリウムとカリウムが入っていて的を得ています。疲れた時の糖質補給は低血糖回避に加えて浸透圧維持にも役立っていることがわかります。アイスクリームを食べると喉乾きますよね、浸透圧が上がるためです。おにぎりはご飯に糖質、具材にカリウムと塩分、海苔にマグネシウムが含まれバランス的に優れた食品ですね。又味噌汁は味噌に塩分、野菜にカリウム、海苔豆腐にマグネシウムが含まれこれも優れています。もっともシンプルなものでは魚肉ソーセージやチーカマなども優れています。

今後も温暖化による異常な暑さが続くと思われますが、水分、塩分、ミネラルのバランスをよく考えて、安全な山歩き、アウトレットショッピング、テーマパークなど行楽をお楽しみください。(爽心会 心臓クリニック藤沢六会 磯田 晋) 

文献: 登山で必要な水分、「何を」「どれだけ」「どうやって」持っていってる? | YAMA HACK [ヤマハック] https://yamahack.com/3652