循環虚脱 胸苦しさ、動悸、立ち眩み

循環は血管緊張と体液のバランスを基本に、血液を動かす心臓の組み合わせでできています。例えば塩分と水分の摂取が足りなくて体液が減ってしまった場合には、手足などにある動脈を緊張させることで、体液を脳や心臓といった中央に集めて体の重要臓器である脳、心臓、腎臓、体幹の内臓の循環を保つようにします。この適応がコントロールの限界を超えると循環虚脱がおこり、胸苦しさ、動悸、立ち眩み、失神などを起こして倒れてしまうようになります。

入浴後に立ち眩みを起こす方がいらっしゃいます。これは循環虚脱です。入浴すると体の表面の血管が開きます。血管の広がり具合を血管床と呼びますが、この血管症が開くと血液やリンパ液などの体液でこれを満たす必要があります。塩分、ミネラルや水分が十分ある場合は体液に余裕があるので大丈夫ですが、塩分切れで体液に余裕がない方はお風呂上りに心臓に帰ってくる血液が少なくなるので、心拍出量が減って、血圧が下がって立ち眩みを起こします。体の芯まで暖かくなるまで入浴していると、汗をかきますので体液ロスが増えて体液が少ないことによる心拍出量の低下傾向がありますが、全身の動脈が広がってこれを維持するためにより多くの心拍出量が必要になりますので、ここにミスマッチが生まれて、血圧が下がって立ち眩みしやすくなります。心臓の弱い方に半身浴がおすすめなのは、入浴による血管や心臓への負荷を減らすという意味があり、また長湯しない方が心臓への負担は軽いですね。もっとも入浴によって十分体温をあげることは抗ウィルスの効果がありますし、代謝を亢進させるちょっとした運動としての効果がありますので、そういう意味では心臓への負荷と入浴の効果は運動と同じように裏表の部分がありますね。立ち眩みを起こす方は入浴前に塩飴や経口補水液などを摂取しておくと体液不足を防ぐことができます。

運動は入浴の負荷を強くしたものと捉えると理解しやすいと考えます。運動して呼吸すると呼気中にどんどん水分が蒸散していきます。また汗をかくと塩分と水分をロスします。マラソン競技で給水所が無ければ命にかかわりますが、必要な塩分ミネラルカロリー水分を補充すれば長丁場を乗り切れます。炎天下でなくても外出、散歩、ハイキング、買物、仕事で水分塩分ミネラルは消費していきますので、30分から1時間に1回の補充は必要ですね。よく水を補充と言いますが、水だけの補充ではNaKMgなどの塩分ミネラルが汗や尿中に失われていきます。水分だけの過剰摂取ではミネラルが低下して倦怠、動悸、息切れ、吐き気、胸痛、意識障害を助長して熱中症が改善しませんので塩飴、経口補水液、スポーツドリンク、そばうどんやラーメンなどで補充しましょう。運動では筋肉の緊張、意識、運動に伴う血管の拡張とアドレナリンによる血管の収縮、体液の不足を補う血管収縮のバランスの上で成り立っていますので、駅伝のゴールで突然緊張が途切れ、筋肉の収縮が途絶えると、循環のミスマッチが生じて循環虚脱を起こして倒れますので、ゴールで誰かに抱きかかえてもらったりして安全を確保しますね。普段の運動では徐々に負荷を増やしていくアップ、運動の終わりに徐々に負荷を減らしていくダウンを上手に用いることで体に無理なく運動ができます。

飲酒では運動と似た部分と異なる部分があります。運動もアルコールも血管を広げるので相対的な体液不足を来します。運動では汗と呼吸で体液をロスしますが、アルコールでは利尿効果によって水分、塩分、ミネラルを失います。酒の肴に塩味が濃いものが多くて、お酒を飲んだあとにラーメンがおいしいのは、飲酒による塩分ミネラル水分のロスを体が補おうとしているからです。お酒を飲んだ翌日は塩分、カリウムが不足していますので、トマトジュース、野菜ジュースがあっています。また味噌汁には味噌に塩分、野菜にカリウム、豆腐やお揚げにマグネシウムが入っていて、ミネラル的にはスポーツドリンクと同じで好ましいです。アルコールには多幸感がありますが、代謝でアルデヒドという2日酔いの毒を産生しますので、飲んでるうちにアルコールによる多幸感が減って来ますので、もう1杯飲みたくなって、ついつい飲みすぎるという問題があります。医者が勧められるのは赤ワイン1杯です。飲酒は血管拡張、体液減少、アルコールとアルデヒドによって循環虚脱を起こしやすいので、飲酒量の過剰、運動や入浴などとの組み合わせでは気を付けましょう。

食事で循環虚脱を起こす方もいらっしゃいます。胃腸が動くと血液を胃腸に持っていかれますので、心拍出量を多く必要にとすると同時に、心臓に帰って来る血液が減少して心拍出量の維持が困難となるミスマッチが生まれて循環虚脱傾向となり、心臓がどきどきしたり、冠状動脈がキュッと収縮して息苦しさや締め付けを感じることがあります。食後に具合の悪くなりやすい方は食前あるいは食事の最初にスープや味噌汁をとるのがお勧めです。主菜でお腹が動く前に体液を増やしましょう。コース料理の前半にスープがあるのは意味があります。

ここまで入浴、運動、飲酒、食事といった生活の場面で循環虚脱について考えてきましたが、体質についても考える必要があります。我々の動脈の壁には平滑筋という筋肉があり、平滑筋の収縮により血管の緊張を保ち血圧を維持しています。遺伝や、普段からの運動や緊張などによる血管ストレスへの耐性は人により異なります。また冷え性のように手足の動脈が縮みやすい体質もあり、心臓に血を巡らせる冠状動脈についても平滑筋の収縮しやすさを遺伝でもらっている事があり、この冠攣縮という血管収縮によって心臓の機能が低下することがあります。冠攣縮の体質の方が、体液ロスなどによる循環虚脱の場面で自律神経が過剰に興奮すると極端な血圧低下によって立ち眩み、顔面真っ暗や、失神などを引き起こしたりします。恋の胸キュンやコンサートで失神というのも同様の機序で起きていると考えると理解しやすいと考えます。父、母、祖父、祖母の誰かに狭心症、ニトロを持っている、不整脈、ペースメーカー、心臓が悪いという話を聞いたら、自分も受け継いでるかもと考えてみてください。どなたかいらしたら最低限タバコは吸わないで、体液の自己管理について考えてみてください。親の体質は1/2、祖父祖母の体質は1/4遺伝しますから。入浴、運動、飲酒、食事による循環虚脱の傾向がある方は塩分ミネラルを積極的に取って体液を増やしたり、積極的に運動の負荷をすることでちょっとした負荷による循環へストレスに強くなるために小汗をかく運動を週1から週3程度行うと良いでしょう。

まとめ、循環虚脱は体質をベースに生活上の注意で防ぐことができます。入浴、運動、飲酒、食事、塩分不足や自分の生活と遺伝環境などについて考えてみましょう。(爽心会 心臓クリニック藤沢六会 磯田 晋)