脈拍

家で血圧を測ると自動血圧計では1番目が収縮期血圧、2番目が拡張期血圧、3番目が脈拍数として表示されます。脈拍は車のエンジンで言うなら回転数です。ゆっくり過ぎるとパワーが出ません、早すぎるとエンジンが早く痛みます。安静時は毎分60-80回が一般的です。

脈が遅いことについて考えてみましょう。マラソン選手のように鍛えている方は排気量の大きなエンジンのようなもので、回転数が少なくても力があります。普段は脈が遅くても十分な心拍出量が得られるので、安静時の脈拍が30-50回でも大丈夫です。1日心電図を測ると普通の方でも夜によくお休みになっている時は脈拍40-60回が一般的です。寝ている時は心拍出量が必要ないため車のアイドリングと同じで、ゆっくり動いて心臓を楽にさせています。脈が50回以下とゆっくりで、歩くと息が切れる方は脈が遅いせいで十分な心拍出量が得られていない可能性があります。脈を遅くする薬を飲んでいないか?を確認して、心電図、次に1日心電図を調べて運動時に心拍が上がる必要があるときに上がっているか、不整脈は出ていないかを確認しましょう。

脈が速すぎると心臓がついていけずに心臓の手前に血がよどみ、息が苦しくなったりします。運動時のおおよその脈の上限目安は200-年齢と言われます。例えば70歳の方は運動時に脈が130以上だと少し早めです。脈を整える薬によって運動能力が改善する可能性があります。緊張や運動で脈が速くなる時に血圧が上がるときがあります。よくクリニックに歩いてきてすぐ血圧を測ると普段の脈が60の方が90まで上がっていて普段の血圧が120/70の方が、140/90に上がる事がよくあります。運動や緊張により心拍数が上がり、心拍出量も上がり、血圧が上がっている状態です。

在宅血圧を測っていると、入浴後に血圧を測ると血圧は朝よりも低く、脈は朝より早いことがよくあります。入浴後は血管が開きますので、相対的な脱水、すなわち体液不足になり、血圧が下がります。心臓は回数で心拍出量低下を補うために脈が上がります。

1日心電図の検査をすると心拍の状態はよくわかります。平均心拍は70回までがいいところで、1日心拍数なら10万回までがいいところですね。

心房細動の方は通常の洞調律の方と比べると脈拍は変動しやすくなります。通常の洞調律では洞結節という脈をとる専門の社長さんのような方がリズムどりをしているので、基本脈拍は安定していますが、心房細動では心房の異所性ペースメーカーという副社長さんの指令が心房の中をぐるぐる回って心房という社長室で秘書さんたちがペチャクチャおしゃべりをしているような状態になって、社長の指令が聞こえなくなってしまします。社長不在になりますので、部長さんにあたる房室結節ではペチャクチャのリズムの中からいつ心室という社員に指令を伝えるか迷ってしまうので、脈拍は早くなったり遅くなったりしてしまいます。洞結節である社長さんが毎分60-80回のところ、心房細動では部長さんが毎分50-100回ぐらいで打つようになり不安定になります。心房細動で頻拍の方は薬で心拍数を整える必要がありますので毎分60-90回を目標にコントロールします。

運動時の息切れが気になる方はトレッドミル運動負荷心電図を検査すると情報があります。運動負荷をかけて目標心拍(概ね200-年齢)、息切れ、疲労、異常な高血圧、心臓の虚血が出たら終了とします。心拍数の過敏な上昇に息切れを伴う方は脈をゆっくりにする薬で運動能力が改善することがあります。運動時に異常な高血圧を来す方は降圧剤あるいは脈をゆっくりにすることで改善のチャンスがあります。心臓の虚血が出る方は心臓の血管を広げる薬、脈をゆっくりにする薬を検討します。虚血が冠状動脈の狭窄を疑わせる場合は冠動脈CTなど次の検査を行います。

脈をゆっくりにする薬はβ遮断薬、Ca拮抗薬、ジギタリス製剤、抗不整脈薬などあります。それぞれの薬に長所と短所がありますので必要に応じて自分に合う薬を探していきましょう。

脈拍が早い方はその原因を探ると、甲状腺機能の亢進、自律神経の興奮、貧血、塩分ミネラル蛋白の不足に伴う体液の不足などの原因が見つかることがあります。自分で調節できる要素としては、カフェインを控える、ブルーライトをカットする、睡眠を十分とる、運動不足にならない、適度な塩分の摂取(注:極端な減塩は体液不足から頻拍をきたします。)、野菜、豆腐や豚肉の摂取、歯を良く磨くこと、魚、大豆、オリーブオイルやゴマ油の摂取などが挙げられます。

まとめ 脈拍には血圧と異なる情報があります。早い、遅い、乱れる、息が切れる、痛みや締め付けなどが気になる方は来院時心電図、1日心電図や運動負荷心電図などで調べる価値がありそうです。