右脚ブロックと言われたら

心臓のリズムどりは洞結節という社長さんが「今だよ」と声をかけて心房を収縮させて、この指令を房室結節という部長さんが「ほいきた」と0.2秒後に心室に指令を送ります。これによって心臓はドッキンドッキンと動くわけですが、心室に指令を送る電線は3本あってそれぞれ右心室、左室前、左室後に指令を送ります。この右心室に送る電線が傷んでいて指令の伝達がのんびりすると右心室の電気的な収縮が遅れる伝導障害となり、心電図上で右脚ブロックという波形となります。右心室は肺に血液を送るサブポンプですので、左室に収縮が少し遅れても心臓の機能に問題は起こりませんのでまずは心配の無い心電図変化ということになります。

ではなぜ右脚ブロックが起きるのでしょう?これは右心室になんらかの負荷が起こって電気を伝える能力が傷つけられることによります。右心室は肺に向かって血液を送り出す部屋ですので、肺に負荷のかかる状態では障害を受けやすくなります。喫煙、気管支喘息、肺炎の既往、肺塞栓をお持ちの方では右心室に負荷がかかって右脚ブロックを起こしやすいようです。また心筋の血の巡りが悪くなると電気を伝える心筋が障害を受けて伝導障害を起こします。喫煙者では右心室への負荷に加えて、右心室の虚血が伝導障害の原因として考えられます。

喫煙、気管支喘息、肺炎、肺塞栓などの既往の無い方では、心筋の血行障害によって伝導障害を受けている可能性があり、狭心症や心筋梗塞のような血の巡りの悪くなる要素を考える必要があります。若い方では、心臓の血の巡りが悪くなるとすると、冠攣縮性狭心症といって、心臓に血液を送る冠状動脈の壁に入っている平滑筋が攣縮と呼ばれる強い収縮を起こすことによって冠状動脈の内腔が狭くなり、心臓の筋肉の血液が不足する事があります。ご高齢の方では動脈硬化による冠動脈の狭窄によって右心室の心筋の障害によって伝導障害が起きる頻度が多くなります。心臓の血の巡りの悪い方では、安静時心電図でp波の2相性、肺性p、ST上昇、T波の低下や陰性化、異常Q波、R波増高不良など来すことがあります。もっと詳しく調べるにはホルター心電図で1日の心電図を観察すると、ST低下やT波の高さの変化や陰性T波などが経時的に観察できます。トレッドミル運動負荷検査では運動に依存したST低下、T波の高さの変化や陰性T波、期外収縮の誘発が観察できます。心エコーでは肺の血圧の上昇、右心室や右心房の拡大、三尖弁の逆流の出現などの変化で右心室への負荷が認められることがあります。また右脚ブロックにST上昇を伴い、家系に若くして突然死をされたり、ご自分が失神を起こしたりする方では遺伝的にリスクの高い病気であるBrugada症候群が隠れている場合がありますので注意を要します。

ところで左脚ブロックを指摘された方は左心室の障害が疑われます。左心室は心臓のメインポンプですので右脚ブロックより注意を要します。心エコー、ホルター心電図、運動負荷心電図などを用いて伝導障害の陰に命にかかわる病気が隠れていないか、将来ペースメーカーを必要とするリスクはないのか、などについて調べていきましょう。