息切れ

坂や階段を上ると息が切れたりしますね。よく年のせい、運動不足のせいと思われると思いますが、本当にそうでしょうか?高血圧、狭心症、心不全、呼吸機能低下、自律神経失調が隠れていることはよくあることですね。

高血圧による息切れ

血圧の上の方、収縮期血圧は心臓が血液を体に向かって押し出す圧力です。心臓は毎秒大体一拍60mlの血液を押し出しますが、圧力が上がるとその分心臓の仕事が増えます。上の血圧が120の方に比べると、180の方では心臓の仕事の量は1.5倍になり、心臓の酸素消費も1.5倍になります。若いころは血圧が正常でも、年齢上昇と共に血圧が上がってきます、また運動時の血圧はさらに上がりますので普段の上の血圧が130ぐらいの方は運動すると180や200に上がることはよくあります。180の圧力に打ち勝つためには、メインポンプの左心室の手前の血液貯蔵庫である左心房に血液を貯める必要があります。普段5-10ぐらいの左心房の圧力が、10-20に圧力が上がることで心臓は180の圧に打ち勝って血液を送り出すことができます。左心房の圧力は肺の静脈の圧力と一致しますので、この圧力が上がると肺胞に水分が滲み出しそうになり、おぼれたような苦しさを感じます。普段の血圧を下げると運動時の血圧も下がりますので、坂はぐっと楽になります。坂が楽になってところで、運動を始めましょう、少しずつ負荷を増やしていけば、苦しくなりにくくなっていきます。人間苦しいと思うと自律神経が興奮して、副腎からはアドレナリンが出て、ただでさえ高い血圧をさらに高くして心臓の酸素消費を増やします。脈拍も増えますので更に心臓の酸素消費量が増えてしまいますので、心臓の筋肉は虚血に陥り、胸痛、喉の詰まる感じ、息切れなどの虚血の症状がより出やすくなります。運動不足を解消すると全身と心臓の血管が広がりやすくなり、負荷による自律神経の興奮は軽度になり、アドレナリンの量が減りますので、運動時高血圧や頻拍が改善し楽に坂が登れるようになります。よく薬に頼らずにトレーニングでと頑張る方も大勢いらっしゃいますが、普段の血圧が120/の方がトレーニングで頑張っている時に血圧が250に上がる方も少なくはありません。健康に良かれと思って苦しさに耐えていると思っていたら過剰な運動時高血圧を引き起こして結果的には左室心筋が肥厚してしまいます。分厚くなった心筋はしなやかさの乏しい硬い心筋になり、弓矢で言ったら強すぎる弓になってしまい、軽やかに弓を引くことができなくなってしまいます。結果として左心室の拡張障害という心不全の原因につながっていくことになります。運動時高血圧はなかなか普段評価することができませんので、トレッドミル運動負荷検査などで調べるとよくわかります。

狭心症に伴う息切れ

狭心症による運動時の息切れは、大きく分けて2つ、運動で誘発される冠攣縮性狭心症による場合と、労作性狭心症による場合に分けられます。

冠攣縮性狭心症は心臓に行く冠動脈の壁に含まれる平滑筋が自律神経などの興奮によって足がつったように痙攣を起こして、内腔が狭くなり心臓の血の巡りが悪くなる状態で、遺伝的な要因が強く若い方でも起こります。冠攣縮は自律神経に影響を与えるタバコ、ストレス、カフェイン、タバコ、ブルーライト、ワクチン、睡眠不足、ミネラルなどで起こりますが、運動でも誘発されることが少なくありません。ホルター心電図やトレッドミル運動負荷検査で診断します。冠攣縮性狭心症では生活環境を整えて、EPAや葛根湯で冠動脈を安定させ、カルシウム拮抗薬、亜硝酸剤、冠拡張薬などを用いて治療します。

労作性狭心症では遺伝に加え、生活習慣の要素が大きくなります。冠動脈の内膜に傷がついて、ここを修復することを繰り返しているうちにプラークという壁の肥厚が起こり、ついには内腔を塞ぐようになると、運動したときに心臓に必要な血流の増加にこたえられなくなり、心臓が虚血で機能を落とし、左心房や肺静脈に血液がよどんで息が切れるようになります。親が心筋梗塞やカテーテル治療を受けている方に多くて、タバコ、高血圧、脂質異常、糖尿病などを背景に、どちらかと言えば中年以上の方に起きてきます。検査はホルター心電図やトレッドミル運動負荷検査で診断していきますが、労作性狭心症が疑われると冠動脈造影CTを用いて、冠動脈の狭窄が常に存在する状態を評価します。労作性狭心症でも禁煙など生活環境を整えて、十分悪玉コレステロールを下げるなど薬物治療を加えていきます。狭窄が高度の場合はカテーテル治療で狭い場所を広げていくようになります。

運動不足による息切れ

運動不足の状態で運動をすると、全身の血管の拡張や冠状動脈の拡張が起こりにくい事、アドレナリンのような内分泌が過剰に反応する事、交換神経が過剰に亢進することが起こります。運動時には心拍出量が増えますが、全身の血管が広がらないと血圧がぐんぐん上昇します。血圧が上昇すると心臓の仕事量は血圧に比例して増え、心臓の機能を上げるために左心房の血液がよどみ圧力が上がり、左心房に流れ込む肺静脈の圧が上がり息切れをきたします。冠状動脈の広がりが悪いと心臓の虚血によって心臓に機能が低下するためにさらに血液がよどんで肺静脈圧が上がり息切れは強くなります。十分な心拍出が得られない状態はアドレナリンの過剰な分泌や交感神経の過剰な興奮が起こり、脈拍の上昇をきたし、全身の血管の収縮と冠動脈の収縮が起こり、息切れを増強することになります。普段から運動をしておけば、全身や心筋の血管床が広がり、過剰な血圧上昇や心筋の虚血を起こさなくなり、またアドレナリン分泌の上昇や交感神経の興奮がゆっくりになることで息切れが起こりにくくなります。

弁膜症などによる心筋障害に伴う息切れ

心臓のドアである弁膜に高度の異常があると、心臓の部屋から部屋に血液が流れにくくなって、心臓の筋肉に負担がかかり心臓の筋肉が変性していきます。心筋が分厚くなってしなやかさを失ったり、心筋の収縮が低下して心臓の部屋が大きくなったりすると、左心房のよどみが起こり、肺静脈に血液がよどんで息苦しさを来します。心筋の障害は弁膜症の他、遺伝、高血圧、喫煙、冠攣縮、心筋梗塞、頻拍、不整脈、糖尿病、脂質異常、肥満、アルコールなど様々な要因で起きてきます。原因となっている要因を取り除き、心筋の環境を改善していくことで心筋が若返り、息切れを改善することができます。薬としては血圧を下げ、EPAで体の血管を広げ、脈をゆっくりにして、交感神経の過剰な興奮を防ぎ、心臓の血の巡りを改善し、利尿剤などで心臓の負荷をとったり、頻拍や心房細動などの制御によって心筋の負荷を減らすことが行われます。弁膜症や心筋の障害を調べるには心エコーが有用です。心臓の部屋の大きさ、心臓のドアの状態、心筋の厚みや収縮などを調べて改善すべきポイントを見つけていきます。

肺の障害に伴う息切れ

肺の機能が落ちると、酸素を取り込む能力、2酸化炭素を排泄する能力、気管支を広げる能力、空気を換気する能力が落ちます。これらの能力が我々の体が期待する能力に足りないと息苦しさとして感じられます。タバコを長年吸ってしまった方、気管支喘息を持っている方、足の静脈から血栓が肺に飛んで肺塞栓を来した方、肺炎、肺線維症、肺がんを持っている方、急に息苦しくなるなら自然気胸も考える必要があります。外来ではまず酸素飽和度を確認します。次に胸部レントゲンで肺を観察して、呼吸機能検査で肺活量と気管支の閉塞状態を確認します。原因によって治療は異なりますが、気管支の拡張、アレルギーのコントロールなどについて、吸入薬や投薬などで改善を図っていきます。

全身の状態に伴う息切れ

心臓や肺の機能が悪くなくても、血液や心臓の内分泌環境が悪化して相対的な心不全による肺うっ血が起きたり、酸素供給や2酸化炭素処理能力の低下が起きると息は切れます。生理による出血、消化管出血や腎性貧血などによる貧血が起きると、一定の血液量に対する酸素の運搬量が低下します。低下した酸素運搬量をカバーするためには全身の心拍出量を増やす必要があります。いつも走っているような状態になりますので息は切れます。甲状腺機能の亢進では全身の代謝が亢進して熱が出ているのと同じような状態になり、心臓の脈拍数も増えて心臓の負担が減ますので結果として息が切れます。風邪をひいたり、発熱をきたす肺炎など炎症がおこると、体の代謝が亢進して酸素消費が増えて心拍出を挙げようとして息切れが起きます。

自律神経の失調に伴う息苦しさ

酸素供給の低下、2酸化炭素の貯留、気管支や換気の状態を息苦しさとして感じるのは脳です。不安や心因性の要因で感受性が亢進すると通常の状態でも息苦しさを感じるようになりなす。この心因性の息苦しさによって過換気をきたして低2酸化炭素になり、過剰にアルカリ性になった体液によって手や体がしびれて動けなくなったりするのは過換気症候群と呼ばれます。不安や心因性の要因による自律神経失調は、心臓の冠状動脈の攣縮による狭心症をひきおこすことがあり、一過性の心機能の低下によって肺静脈圧が上昇すると息苦しさが起こります。同様に自律神経失調が気管支の痙攣をおこすと気管支喘息が起こり息切れをきたします。コロナワクチンやコロナ感染による息切れは気管支の障害に加えて、自律神経の失調を介しておきることが多いようです。息切れに対する心臓や肺へのアプローチで十分効果が得られない場合は、超長時間型ベンゾジアゼピン系不安薬などで息切れをコントロールします。

まとめ

息切れは心臓、肺、全身状態、自律神経や心因性の要因などによりおきます。息切れの原因を探り、治療に結び付けていきましょう。(爽心会 心臓クリニック藤沢六会 磯田 晋)