思春期と若年の狭心症

思春期から30台の方の胸痛、息切れ、胸を締め付けられる感じについては、様々な状況が考えられますが、今回は冠攣縮性狭心症について考えてみましょう。

狭心症とは読んで字のごとく、心臓を栄養する冠状動脈が狭くなり、心臓が締め付けられる感じなどの症状を来す、まさに上手につけた名前です。

ご高齢の方に多い労作性狭心症は、冠状動脈にプラークと呼ばれるコレステロールの塊ができて、動脈の内腔が狭くなることが原因です。安静にしているときは流れる血流が少ないので狭くても大丈夫なのですが、歩いたり、坂を上がったりすると冠動脈を流れる血流が必要になりますが、狭いところを十分な血流が流れずに、結果として冠動脈の下流にある心筋に十分な血流と酸素が来ないので、心筋が苦しがって胸痛、胸の締め付け、あるいは心臓の手前にある肺静脈に血流がよどんで息が切れるようになります。労作をすると症状が出るために労作性狭心症と呼ばれます。

一方、若い方に多いのは冠攣縮性狭心症です。冠動脈の壁には平滑筋という筋肉があります。皆さん足がつったことがあるかと思いますが、これは足の筋肉の痙攣です。これと同じような痙攣が冠動脈の平滑筋に起きると、内腔が狭くなり、中を流れる血流が不足して、下流にある心筋に血流と酸素が足りなくなり、労作性狭心症と同様に胸痛、胸を締め付けられる感じ、胸を押される感じが起こります。労作性狭心症が労作時に限られるのに対して、冠攣縮は労作時に限らず、安静時、就眠中、運転中、仕事中などいろいろな場合に起こります。早朝の就眠中に起きる場合は異形狭心症と呼ばれています。安静時に起きる場合は安静狭心症とも呼ばれます。冠攣縮はどちらかといえば午前中に多いと言われますが、コーヒーの摂取、アルコールの摂取、精神的ストレス、風邪、寒さなど人により様々な状況で起こります。多くの場合遺伝的要素が多く、父か母が持っていることが多いですね。ご両親、おじさん、おばさん、兄弟に心筋梗塞や狭心症を持っているか聞いてみてください。冠攣縮は労作性狭心症や心筋梗塞とも強い関連があり、また同時に混在する場合も少なくないようです。

胸キュンという言葉がありますね、恋のストレスで胸が抑えられる感じや胸に痛みを感じるときに使われますが、我々は多かれ少なかれこの素質を皆様お持ちです。普段は起きないのですが、条件が揃うと起こりやすくなるようですね。

生活面ではコーヒーが好きな方、タバコを吸う方、深酒をする方、パソコンでブルーライトを浴びる方、暗がりスマホ、睡眠不足など、自律神経を不安定にして、交感神経という戦闘的な神経が興奮する状態です。最も強力なのはタバコでしょうか、ニコチンに強い冠攣縮を起こす要素があります。

食事などでは、野菜、果物やおかずに多く含まれるカリウムが少ないと足がつりますが、冠動脈も不安定になりますね、また豆腐、特に木綿豆腐に多く含まれるマグネシウムは不足すると筋肉や冠動脈は不安定になりますね。豆腐のにがりがマグネシウムで、海藻や海苔、海産物にマグネシウムは多く含まれます。次に塩分と水分が切れると体液が不足して血管の内腔を保てなくなりますので頭痛、足のつり、冠動脈の不安定化の原因になりますね。人間を含めた陸上の生き物も元はといえば海に生きるアメーバの様な生き物から始まった訳で、陸に上がる時に体液という海を体の中に閉じ込めたわけですから、海の成分であるナトリウム、マグネシウム、そして細胞中の主成分であるカリウムは細胞とその環境のためには欠かせないミネラルですね。水分の補充はもちろん大事ですが水だけですと尿中にミネラルが出てしまいますので、スポーツドリンクのようなミネラル入りの水分が役に立ちます。ただ若者向けのスポーツドリンクは500mlに50gの砂糖が入っていて太ったり、糖質の過剰な負荷は血管の障害の原因となりますので、大人は砂糖の少ない甘味料をつかったOs1、ゼローアクエリアスやイオンウォーターなどがお勧めですね。

診断は時に難しいことがあります。労作性狭心症の場合ですと、運動負荷心電図で疑わしい場合には、冠動脈造影CTやカテーテル検査をすると冠動脈の狭窄や血管狭くしているプラークが目で見えますので一旦疑えば診断には難渋しませんが、冠攣縮の場合は狭くなるのは一時的ですから目で簡単に見えるようにはならないのが問題です。症状をおこす誘因や家族歴などをまずは良く聴取することが必要です。安静時の心電図変化についてはある場合もあるといったところでしょうか。心電図にSTやT波という狭心症などで変化しやすい場所がありますが、普段からSTが上昇あるいは低下する方、STの上昇が時により変化する方、若いのにT波の高さが低くなったり陰性なったり、心室性期外収縮という心筋にダメージが及んだ時に出る不整脈が年齢不相応に多いなどですが、決定的な所見はありませんね。動脈の脈波検査をすると若いのに動脈硬化の亢進で血管年齢の上昇を指摘される方も多いようです。おそらくは交感神経の興奮によって末梢の血管も締まりやすいことがあるようです。外来でできる検査としてはホルター心電図という1日間の心電図が最も有用です。心電図の波形の中のとがったQRS波の後の平らなST、緩やかに上がるT波が状況に応じて変化していくのを捕まえることで冠攣縮が起きていることを推定できます。クリニックからの帰り道、坂、階段、買い物、仕事、運転、送り迎え、食事、家事、掃除、入浴、就眠、就眠中の変化、起床、朝の支度、歩行、来院などの要素で脈拍とSTとT波の変化や期外収縮の起きるタイミングを追うとどのような時に冠攣縮が起きるかがわかります。運動負荷心電図はまずは労作性狭心症の診断に有用ですが、冠攣縮狭心症の方にも有用なことが多いです。冠攣縮の強い方はトレッドミルというベルトコンベアの上に立っただけで心電図変化が出ることがあります。負荷の増減に合わせて心電図が変化する労作性狭心症とは異なる心電図変化により冠攣縮が疑われる場合も多くあります。来院時に症状があれば心電図をとってからニトログリセリンという冠攣縮をおこした冠動脈を拡げる薬を舌下して再び心電図をとります。心電図の変化また症状の変化があるかが大事な情報です。ニトログリセリンは血管を拡げる薬ですが、血管拡張性の頭痛の頻度が多く、血管を拡げる時に血圧が下がるのでふらつきやめまいを起こすことがあります。症状が出てニトロを試してもらう前に、症状がない状態でニトロを一度試してもらうことをお勧めしています。帰宅後十分水分を摂取して副作用を出にくくして、ニトロを舌下してもらいます。30秒から5分ぐらいで吸収されますので副作用が少なければ、今度は症状が出た時に試していただくようになります。ニトロは1時間もたつと体から消え去ってしまいますので、冠攣縮が強く疑われ、日常生活や食生活の改善で症状が改善しない場合は、長時間効果のある薬剤に切り替えます。Ca拮抗薬、ニトロの徐放剤は血圧を下げる効果がありますので、血圧が低めの方では、血圧の下がりにくい冠拡張剤を用いることもありますし、体液をしっかりさせる漢方薬を用いることもあります。さてこれらの冠拡張剤を用いるときは症状の改善で減量していくことがありますが、冠拡張薬で薬が切れるのに1週間程度かかるものもあります。自己判断で1日2日やめてもう大丈夫だと自分で過信すると、中断によるリバウンドが起こることもありますので、減量あるいは休薬したくなったら医師と相談しながらゆっくり減らして、薬を切る時はニトロを持っていてくださいね。

運動で誘発される冠攣縮の場合は、長距離走などですぐに息が苦しくなってしまいます。多くの方が自分は根性が無いんだなどど思っていらして、冠攣縮の診断と投薬によってスポーツが好きになったり、運動に対する嫌悪が無くなって人生が明るくなる方もいらっしゃいます。運動が苦手ですぐ息が苦しくなる方、胸が痛くなったり締め付けられたりする方は一度調べてみてはいかがでしょうか?