降圧薬は夜内服すると心臓血管のトラブルが4-5割減少する
朝血圧の高い方は夜(夕食後)に降圧薬を内服するように指示してまいりましたが、今後は原則、夕食後の内服をお勧めすることになりそうです。スペインの研究では、約2万人を朝あるいは夜に内服する2群に分けると、平均6.3年の観察で、夜内服した群で心臓血管による死亡は56%、心筋梗塞は34%、冠血行再建手術は40%、心不全は42%、脳卒中は49%減少、改善することが示されました(Ramon C. Hermida, et al.: Bedtime hypertension treatment improve cardiovascular risk reduction: the Hygia Chronotherapy Trial. European Heart J (2019)0,1-12 2019/11/1 on line)。さて問題になるのは夕方の飲酒と飲酒後の飲み忘れです。解決策は、飲酒前あるいは夕食前に内服してしまうことでしょう。ほとんどの降圧剤は食後に内服するよう指示され、飲酒は推奨されませんが、コンプライアンス(飲み忘れをなくす)の改善には、飲酒する方は、夕食前に内服するほうがいいかもしれませんね。ご批判はあるでしょうが、生き死にを半分変えてしまうデータを覆すほどの問題があるとは小生は思いません、ご検討ください。
高血圧はより厳格に、原則130/80mmHg以下へ
2016/5 米国心臓病学会で、収縮期血圧が120mmHg未満になるよう厳格に降圧することで、心血管イベントは25%、全死亡は27%減ると報告されました(SPRINT試験)。これまでは140/90以下ならOKとされていましたが、血圧は低いほど長生き、それも5-8割違うことが示されました。これを受けて2019春より、目標血圧は原則130/80mmHg以下となりました(75歳以上140/90、脳血管障害140/90、慢性腎不全蛋白尿(-)140/90を除く)。増えつつある心不全の最大の原因である高血圧は、簡単な治療で健康寿命を延ばせます。治療しないなんてもったいないことです。また降圧剤の種類の選択はとても大事です。自分に合った選択を一緒に探しましょう。
高血圧を治療しましょう、家族の為、自分の為に
高血圧と言われても、実際ピンとこないですよね、何の症状もない方も多くいらっしゃいますし、中には肩が凝りやすくなったり、坂で息が切れるようになったり。敏感な方のほうが治療がより早く始まって、高血圧による健康寿命の短縮にさらされませんね、そう考えると一病息災というのがうなずけます。どうせ飲むなら遅いほうがいいや、と降圧薬の服用を先に延ばす方がいらっしゃいます。どうせいつかはやめるんだから、症状が出たらやめればいいやとタバコを吸い続ける方、いらっしゃいますね。高血圧の害、タバコの害、いずれもやめるまで大丈夫だったから間に合った、問題なし、そうでしょうか?残念ながら犯罪の前科と同じで、高血圧やタバコによる健康寿命の短縮は取り戻せません。でも今からでも降圧しましょう、禁煙しましょう、不必要な罪をこれ以上増やしてはいけません。
厚生省の死亡統計によると30から60歳の30年間に心大血管で命を落とす方は100人中3人です。この数字は血圧の上昇とともにぐんぐん上昇します。以下のデータを見てくださいね。
血圧120/80以下が正常 ここを目指しましょう!
血圧120/80以上はリスク2倍
血圧140/90以上はリスク3倍
血圧160/100を放置すると心血管死6倍ですので100人中18人が命を落とします。
血圧を下げるのはどんな保険に入るよりお得です。働き盛りに倒れたらもったいないし、寝たきりのあなたを看るご家族も大変です。
治療を先延ばししているあなたへ 歴史に学びましょう
もはや歴史のはなしですが、上の図(文献1改変)に示すように、1964年から1969年にかけて高血圧を治療するべきか、しないべきかの研究がFreis博士を中心に行われました(文献2)。中等度の高血圧の方では、治療した群で約2割、治療しない群で6割の方が、5年間に命を落としました。5年で命が4割違うのは驚きの事で、現在では高血圧の治療を受けない群を作る研究は非人道的であり、禁止されています。まさかあなたは自分自身を非人道的な実験対象にするつもりですか?
“薬を始めると止められない”のは、薬に麻薬のような習慣性があるのではありません。薬を飲むべき方が飲まないことがとても危険なことがわかっているので、医師が止める事をお勧めしないからです。血圧は生まれた時に上が70ぐらいで、人生の最後には上が160ぐらいになることが平均的です。多くの方は人生の途中で上が130を超えてきますので薬を飲むことで健康寿命を延長し、あるいは心不全や脳卒中を避けられるメリットがあるのです。薬を飲むべきなのにあえて飲まないのは1960年代の治療しない群に入るのと同じで、50年以上時代遅れの選択です。自分をあえて現代的には禁止された無謀な群に入ることを我々医療者はお勧めしません。しかし人生は自分のものです。高い山に登るのも、スカイダイビングするのも自分の権利です。リスクを理解したうえで、チャレンジすることを我々は止められません。でもリスクを知らずに寝たきりになったら後悔しますよね。どうしても薬を飲みたくない方は、もう塩分の制限は極限までなさっているでしょうから、次は減量してください。3kg落とすと結構違いますよ。
日本は長寿国といわれます、なぜでしょう?
日本食がいいのでしょうか?そうかもしれません。でも私は我が国の皆保険が真の理由だと思っています。保険があるから皆さんが降圧薬という長生き薬を飲めることが最大の理由なのではないでしょうか。人生は太く短くとおっしゃいますが、どうでしょう?命に係る方と同じくらい、あるいはそれ以上の多くの方が寝たきり、心不全、透析になります。我々は大勢の寝たきりの方が施設や在宅にいらして、その多くの方が少し前までお元気で、高血圧を放置していたことを残念におもっています。
飲みだしたらやめられないのではありません。いま飲むべき薬を飲んでいないのです。タバコや高血圧による老化は後から帳消しにできません。早めの受診をお勧めします。倒れて後遺症が残ったらもったいないですから。もういちど言います、どんな生命保険に入るより、高血圧を治療するのがお得です。もう一つ言います、このクリニックが日曜休日も診療する最大の理由は、あなたに仕事が忙しくて血圧の薬をもらう時間がないんだよという言い訳をさせないためです。
あと1日持たせてください、時々言われます。とても大変です。
緊急手術で大動脈解離の方を助ける、10人チームで1日がかりです。
降圧で大動脈解離を防ぐ、これが最も簡単で、最も効果的です。自分が心臓外科医から循環器医になった最大の理由が実はここにあります。ご理解いただければ幸いです。
出典
- Veteans Administration Cooperative Study on Antihypertensive Agents, "Effects of treatment on morbidity in hypertension. Results in patients with diastolic blood pressures averaging 90 through 114 mm Hg." JAMA, 1970. 213: 1143-1152. A Historical Look at the Department of Veterans Affairs Research and Development Program Veterans health administration R&D communications, Baltimore 2010
- Edward D. Freis, M.D. The most important breakthrough, in 1957, was the development of chlorothiazide, a new diuretic drug that quickly supplanted injection of mercurial diuretics in edematous patients. Veterans Administration Cooperative Study on Antihypertensive Agents, "A double blind control study of antihypertensive agents III. Chlorothiazide alone and in combination with other agents; Preliminary results." Arch Int Med, 1962. 110: 230-236.
悪玉コレステロール LDLについて
世界で一番発売額が大きい薬品は悪玉コレステロールのLDLを下げるスタチン(薬のグループ、日本で発見されました)だそうです。それは世界の皆様が長生きしたいと思っていて、スタチンが長生きするのに有効だと知っているからです。運動でもいいのですが、実際には十分な運動ができない方が多いのが世界の状況です。LDLは別名悪玉コレステロール、正常139mg/dl以下ですが、コントロール目標は患者の持つリスク段階により異なります。まとめは後述しますね。
コレステロールは筋肉や血管を作る膜の成分です。その一部が悪玉のコレステロールであるLDLです。もし総コレステロールが高くても、善玉のHDLのほうが高かったら、何の問題もありません。以前駅伝選手の採血結果をテレビ番組で拝見しましたが、ほとんどの方のHDLがLDLを上回っていました。運動をすると善玉コレステロールが増えます。しかしみんなが駅伝選手のようにはなれませんね。
血管に傷がつくと血管内皮細胞が剥がれ落ちます。すると、マクロファージという修復屋さんが治します。このマクロファージはお掃除屋さんも兼ねていますので、悪玉LDLコレステロールが多くて、これがタバコ、脂肪細胞、高血圧などのストレスでLDLが変性するのですが、マクロファージはこの変性したLDLを食べて掃除してくれます。変性したLDLが細胞内にたまったマクロファージの細胞は血管の傷を治しながら血管の表面(内面)で死んでしまいます。すると細胞内にたまった変性LDLが血管内面にだんだんたまっていって、いずれは血管をふさいでしまうぐらい積みあがることがあるのです。これが心臓の血管なら、狭心症になってしまいますね。
ところで動脈硬化は硬いという字を使いますね、動脈硬化の血管を中から見ると石灰がいっぱいたまっていることがあります。もちろん触ると硬いですよ。これは血管の傷を治すために倒れていったマクロファージ細胞の細胞内カルシウムが積もったものです。言ってみれば、動脈硬化はマクロファージの死骸のお骨でできているんです。王様や女王さまであるあなたを助けるために血管の片隅で死んでいった兵隊たちなんですね。さて、ご主人たるもの、自分の兵隊さんたちを無駄死にさせてはいけません。スタチンを飲むことでマクロファージがしょっている変性LDLを減らすことができるのです。
問題が一つあります。コレステロールは筋肉の膜の成分です。関連は完全に解明はされていませんが、コレステロールを下げるスタチンが筋肉痛を起こしやすいという副作用があります。必ずしもコレステロールが下がりすぎると筋肉痛が起きるわけではなく、薬と患者さんの相性で起きているようです。スタチンで筋肉痛が出たら、種類を変えてみましょう、何種類もありますので自分に合ったスタチンを見つけてください。どうしても見つからない方はもう一つの方法として魚油があります。サプリEPAの欄を参照してくださいね。
LDLの目標は人によって異なりますので以下の表をご参照くださいね。
コントール目標
段階 | 目標数値 | 持っているリスク |
---|---|---|
最高リスク | 70> | 家族性高LDL、急性冠症候群、心筋梗塞後、糖尿病合併症 |
高リスク | 100> | 安定狭心症 |
中リスク | 120> | 糖尿病、腎障害、脳梗塞、末梢動脈病変 |
一般リスク | 140> | 中年男性、更年期後女性 |
低リスク | 160> | 若年男性、更年期前女性 |
運動で体質改善を目指しますが、スタチンが必要になることが多いです。筋肉痛が出やすい方は自分に合った薬を探していきましょう。 スタチンがだめな方、ハイリスクの方には魚油のEPA(イコサペント酸)、エパデール®をおすすめします。イワシで1-9匹分摂れます。
油が苦手な方は少量から増やしていってくださいね。心血管リスクを2-5割減らせます(心血管寿命を2-5割伸ばすと思ってください)。2019/4/16に処方箋が無くても買えるように市販開始されました。医療費を減らしつつ国民を健康にという考えでしょう。高脂血症の方は保険適応です。スタチンを使用してもLDLが高い方はコレステロールの吸収を下げる薬(ゼチ-ア®)が必要になります。 それでもLDLが高い、体質的な、家族性コレステロール血症の方はPCSK9阻害薬の注射を2-4週に一度うてば大丈夫です。目の上に黄色腫、かかとのアキレス腱の肥厚があったら家族性かもしれません、お知らせくださいね。
出典
Imano H et al. Preb Med 2011; 52: 381-386.より作図
(循環器検診を受診した一般住民約8,000人を22年間追跡したデータ)
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